「漕ぎ出す先に浮かぶ山の輪郭、弱き足が起こす疾風。」
総合評価
4.04
自転車とは、風を切り大地を踏みしめながら進む乗り物だ。坂道が山や街道を駆けのぼるとき、彼の笑顔と仲間の声援が物語を突き動かす。夢中でペダルを回すことで、一度は壁に見えた峠を越えられるという実感が、読者の胸にも小さな勇気を灯す。インターハイのような熾烈なレースでは、スプリントやクライムなど選手ごとの強みが際立ち、チームの戦略と個人の根性が交差する。そこには長い上り坂を抜けた先の眺めのような爽快感と、過酷なレースの末に立ち尽くす疲労感が同居している。物語を閉じれば、読者はまるで高原の風が自分の背中をそっと押してくれたかのような余韻を覚えるだろう。
ストーリー
4.0
秋葉原通いのオタク少年がロードレースで頭角を現すという導入が新鮮だ。最初は仲間との交流に戸惑う坂道だが、レースが進むにつれチーム戦の魅力や駆け引きの面白さを体感する。レースごとに顕在化する課題をクリアしながら成長していく構成が、読みやすくも熱い。
キャラクター
4.2
主人公の小野田坂道を中心に、今泉や鳴子、そして他校のエースたちが個性的な性格で衝突しながら共存する。弱気になりがちな坂道を、強烈なモチベーションで引っ張る仲間や、意外なライバルたちとの関わりが、青春の苦さと甘さを同時に運んでくる。
地道にペダルを踏めば遠くまで行けるというシンプルな事実が、本作の根底にある。趣味や性格がバラバラでも、ゴールに向かう想いを共有すれば補い合えるというチームワークの大切さが浮かぶ。好きなことをひたすら貫く坂道の姿勢が周囲を動かす点も、物語の光だ。
オリジナリティ
3.9
自転車競技を少年漫画的な熱血と結び付け、キャラクターそれぞれの走法や必殺技めいた展開を組み込む。比較的マイナーなスポーツをメジャーなエンタメとして成立させる工夫があるが、王道的な熱血サクセスの流れを踏襲しているため、驚きよりは安心感が強い。
ビジュアル
4.2
坂道が必死にペダルを回す姿や、峠を駆け上がるシーンのダイナミズムが鮮明だ。風を切る描線や背景の動きが効果的で、レース中の抜きつ抜かれつが伝わる。キャラクターの表情も大きく、疲労や高揚が視覚的に迫ってきて、臨場感を高めている。