「不意に落ちる恋、レベルカンストの予感。」
総合評価
4.04
いやはや、ゲームの世界でつながった縁が、現実の恋へと階段を駆け上がっていく様は実にエキサイティング。そのうえ、プロゲーマー山田の無表情かつ超然とした態度と、茜のちょっとドジっ娘気質が合わさることで、淡泊なはずの関係性がいつしか甘酸っぱい空気を醸し出すのだから面白い。恋愛感情をデータ化できれば楽なのに、そうはいかぬところが人間味というものだろう。ゲーム内のレベル上げとは違い、リアルの恋心はひとつずつ段階を踏みながら深まっていく。妙に説得力のあるそのプロセスが、読者の胸をくすぐる。軽妙な会話劇とほのぼの要素が、現代的な恋のいびつな可愛げを表現する好著といえよう。
ストーリー
4.0
ゲーム内での偶然の出会いが、現実のオフ会を経て恋へと進む筋立ては、まさしくオンライン時代の新定番。しかしながら、成り行き任せのようでいて、実は茜の元カレ問題や、山田のプロとしての立ち位置など、小さな障害が所々でほどよく波乱を巻き起こす。急展開ではなく、あくまで日常の延長線上にあるラブコメディという筆致が安心感を生む。だからこそ、二人が心の距離を縮めるプロセスに妙なリアリティが宿るのだ。
キャラクター
4.2
寡黙で人づきあいが苦手な山田と、失恋の傷を負いつつもあくまで前向きな茜。この正反対のような二人の組み合わせが楽しい化学反応を生み出す。さらに、ギルド仲間の面々も立体感たっぷりで、ただの賑やかしには終わらない個性を見せる。とりわけネットを介した交友であっても、現実世界同様に人間関係の機微があるという描写が秀逸。キャラ同士の掛け合いで見えてくる弱さや優しさが光る。
ゲームやオンラインでのつながりが当たり前の時代、現実の距離感をどう埋めるかがひとつのテーマとなっている。顔を見ずに親しくなる反面、リアルでのコミュニケーションは案外ぎこちない。そんなミスマッチを笑いながら、結局は相手を想う気持ちが大事なのだと気づかせてくれる。恋愛に効率や確定ルートはないが、それでもレベルアップしていく過程こそが尊いというメッセージが心に残る。
オリジナリティ
4.1
恋愛漫画×オンラインゲームという組み合わせは、昨今ちらほら見受けられるものの、本作の味わいはキャラの独特さに負うところが大きい。プロゲーマーという存在の新鮮さ、ゲーム特有の戦略や用語がほどよく絡んでくる構成で、読者の好奇心をくすぐる。単なるオタク受けにとどまらず、一般層にも入りやすいバランスをとっているところが好印象だ。
ビジュアル
3.9
シンプルかつ見やすい作画で、キャラクターの表情と動きが丁寧に描かれている。特に茜のへにゃっとした笑顔や照れたときのリアクションは、読み手の頬を緩ませる魅力を放つ。一方で、ゲーム世界の描写はそこまで過度に作り込まず、現実パートとのバランスを重視するスタイル。全体的にコマ運びがスムーズで、勢いとほのぼの感のあるテンポづくりに貢献していると言えよう。