「孤独をほどく怪物の隣で、恋がゆっくり目覚める。」
総合評価
3.98
成績優先でクールに生きてきた雫が、予測不能な怪物級男子・春に出会うことで自身の殻を一枚ずつ脱ぎ捨てていく過程が甘酸っぱく、時に痛快である。ソリッドだったはずの雫が、春の破天荒に巻き込まれて右往左往するやりとりは、青春ラブコメの定石を踏襲しながらも独特のケミストリーを生み出す。周囲のクラスメイトもまた一筋縄ではいかず、友情や片想いが絶妙に交差して物語に厚みを加える。まるで水の中で弾ける炭酸のように、無機質な雫の心に小さな泡が次々と湧き立つさまが愛おしい。最初は戸惑いの連続でも、いつしか彼らの不完全な優しさがほんのりと胸を温めてくれるのだ。
ストーリー
4.0
主人公が成績を最優先に生きる少女、というと一見地味な設定ながら、彼女の前に怪物級の問題児が現れることで展開が一気に加速する。事件まがいのトラブルは多いが、その奥には「相手を知りたい」「自分を分かってほしい」という純粋さが潜んでおり、読後には軽やかな温もりが胸に残る。ラブコメらしくも人間ドラマがしっかり描かれ、思わぬところで交差する人間関係がストーリーに程よい波乱を生む。
キャラクター
4.2
雫の現実主義は彼女の孤独や不器用さとも表裏一体であり、そこに春の天才肌の変人ぶりが混じり合うのだから、実に面白い火花が散る。さらに友人たちのキャラクター性も地味に深く、何気なく見える日常の中でコンプレックスや秘密が垣間見える。主人公二人の凸凹感だけでなく、取り巻く人物がそれぞれの想いを抱え、物語に多彩な色を加える点が魅力的だ。
勉強や世間体にとらわれがちな雫が、他者との触れ合いの中で自己を見つめ直す姿に、若い頃のもどかしさが鮮明に浮かぶ。一方で、人を怖がる春もまた、雫やクラスメイトとの交流を通じて少しずつ心を解き放っていく。結果として、誰かを理解しようとする気持ちこそが自分の殻を砕く鍵になるという、普遍的だが温かいメッセージが浮上する。
オリジナリティ
3.8
王道的な学園ラブコメ構造を踏襲しつつ、ヒロイン側が「勉強第一主義」というクールな価値観を持つ点や、ヒーロー側の行動が破天荒すぎる点にユニークさがある。衝撃的な出会いを経て徐々に打ち解けていく流れは定番ではあるものの、細やかな心理描写や脇役同士のドラマが重なり合い、読者を引きつけるオリジナルの空気感がしっかりと息づいている。
ビジュアル
4.0
柔らかな線で描かれるキャラクターたちの表情が豊かで、取り繕わない本音や戸惑いがコマごとに伝わってくる。大きなアクションがあるわけではないが、雫と春の目線のやりとりやリアクションが丁寧に扱われており、各シーンの空気感がしっとりと伝わる。教室や街角など身近な風景にさりげない温かみを宿す作画が、物語のほのぼのした魅力を下支えしている。