「閉ざされた壁の内外で、自由は絶望を纏う。」
総合評価
4.46
「壁」そのものが一つの精神世界のように思われる。外界への憧れと恐怖は、エレンを中心にした若者たちの血潮をかき立て、あたかも夢の深層へと潜り込んでいくプロセスを想起させる。最初は「人類対巨人」という単純な図式に見えて、その奥から人間社会の矛盾や、自由をめぐる鋭い問いが湧き上がる。この作品の持つエネルギーは、痛烈なバイオレンスや裏切りなど生々しい事象を通して、われわれが日常に封じ込めている不安や渇望を解放してくれる点にある。ページをめくるたびに、壁の外の空気が静かに胸を刺すように感じられるのだ。
ストーリー
4.5
絶望の一端から始まる物語が、徐々に人類史や政治的抗争へ深く踏み込んでいく構成は鮮やかだ。壁外の謎や巨人の起源に焦点が移るにつれ、「生き残るための戦い」が「真実を求める戦い」へと変容し、読者は予想もつかない方向へ導かれる。物語の大きな歯車が回る音が常に耳元で鳴り続け、先行きの不安と好奇心がないまぜになった、奇妙な昂揚感に包まれる。
キャラクター
4.4
エレンの激烈な情熱、ミカサの内に秘めた強さ、アルミンの知的戦略。主要三人が複雑に支え合い、そこへリヴァイやハンジといった濃い色彩の個性が加わる。誰もが多面性を持ち、敵か味方か境界線が揺れる人物像が多いのも特徴。人間の意思がこれほどまでに重く、時に残酷な力を帯びるのだということを、彼らの言動から突きつけられる。
自由と恐怖はたいてい背中合わせだ。壁の内側に安心を求める人々もいれば、外の未知へ飛び出そうとする者もいる。そうした相克は、われわれが普段思考から外している部分を炙り出す。人が望む自由が、必ずしも幸福を保証しないことを、この作品は不快なまでに明確に示してくる。
オリジナリティ
4.5
巨人と壁のモチーフ自体は、荒廃世界を扱う作品の系譜の中にあるが、そこへ政治劇や民族の歴史を複雑に絡ませ、謎解きの興味を尽きさせない技術が光る。次々に投じられる衝撃的な事実が、物語を強引に加速させる。結末を知ってなお、また最初から読み直したくなる力がある。
ビジュアル
4.6
立体機動装置を使った空中機動戦や、巨人の不気味な表情と荒々しい線が生む臨場感は圧巻だ。陰影の深い筆致が、血や破片の飛び散る暴力性に生々しさを与え、恐怖をダイレクトに伝えてくる。コマの配置や見開きの使い方も巧妙で、一瞬たりとも視線を逸らせない。