忘却バッテリー

総合評価 4.02

ストーリー

4.0

キャラクター

4.1

メッセージ

3.9

オリジナリティ

4.2

ビジュアル

3.9

名門校の捕手として活躍していた要は、ある日突然記憶を失った。普通の学校で目覚めた要を、かつてのバッテリー相手・夏央は複雑なまなざしで見つめる。すべての思い出をなくした要は、白球を握りマウンドに立ったとき、わずかに蘇る感覚に戸惑う。周囲は彼を元に戻そうと奔走するが、かつての栄光や確執は要の頭になく、彼自身の中で何が新しく芽生えるのか。野球への情熱と失った記憶が交差するドラマが、ここに広がる。

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漫画評論家 瀬戸美波氏のレビュー

「記憶の欠片と投球の軌跡、少年たちが探す失われた時間。」

総合評価

4.02

記憶をなくすという設定は、少年の心の中に静かに広がる白い霧のようだ。そこにはかつての名声も対立も、本人には何一つ残っていないという不思議がある。その空白が、チームメイトたちの思いと交錯するとき、読者は笑みと切なさが同時に胸に浮かぶ感覚を味わうだろう。かつてのバッテリー相棒や、学校の仲間が抱える記憶と実績が、要の無垢な現在と強くぶつかっていく。試合の場で飛び交うボールは、過去と現在をつなぐ手がかりでもあるし、二度と戻らない時間の象徴でもある。「忘却バッテリー」は、まるで散りゆく花びらを懸命にかき集めるような青春の残響を描き出している。

ストーリー

4.0

主人公が記憶をなくし、かつての華やかな栄光や人間関係を忘れているという仕掛けが新鮮だ。野球漫画としての王道的試合の盛り上がりに加え、主人公が何者だったのかを探るミステリー要素が加わっている。過去と現在のギャップが物語に緊張を生む。

キャラクター

4.1

要と夏央を軸に、記憶を失う前から要を知る者と、今の要しか知らない者が混在し、人間模様が複雑に絡む。どのキャラも野球への思いがありつつ、その熱意や不満が相互作用を起こす。特に要が見せる無邪気さと、周囲の戸惑いの対比が見どころだ。

メッセージ

3.9

過去に囚われたままではなく、かといって忘れきることでもない。その境界で揺れる青年たちが、白球を通して未来を見ようとする様が印象的だ。記憶とは何か、人はそれをなくしたときに何を得られるのかという問いが、試合とともに重なる。

オリジナリティ

4.2

野球漫画の枠に、「記憶喪失」という大きな謎を融合させているのが特徴的だ。単に勝ち進むだけではないドラマが、読者の興味を引き寄せる。過去の栄光や因縁を主人公本人が忘れているからこそ、周囲の反応にも独特の歪みが生まれ、作品の個性に結びついている。

ビジュアル

3.9

試合中のスピード感や練習風景はしっかり表現されているが、派手さよりも登場人物の表情や視線に重きを置いている印象がある。記憶の断片を回想的に挿入するコマ割りも巧みで、まるでフィルムが断続的に流れるようなイメージが伝わってくる。