「やり直せるか、初恋。 水面に揺らぐ、あの春景」
総合評価
4.10
いやはや、甘酸っぱさのデパートか、と言わんばかりに青春特有のもどかしさが詰まっておる。過去のすれ違いを抱えながら再び出会った双葉と洸、その微妙に残る距離感が、読者の胸を絶妙にくすぐるのだ。中学時代の淡い思い出を引きずりながらも、人は時とともに変わる。その事実が二人の関係に複雑な陰影を生み、ああももどかしくも愛おしいドラマへと昇華している。何気ない会話やちょっとした表情の変化が、まるで春の風のように心をさざめかせる。青春の煌めきを一度は過ぎ去った大人こそ、「あの頃の自分」を呼び戻すかのごとく甘く懐かしい読後感を味わうであろう。
ストーリー
4.2
中学時代の淡い恋心がこじれたまま時間が過ぎ、それが高校で偶然にも再燃する。この“時を経た再会”という構図が何とも切ない緊張感を生み出すのだよ。さらに、周囲の友人たちが自分たちの事情を抱えつつ、それぞれの立場から二人を見守る構図が、さながら重層的な青春ドラマを織りなしている。大事件こそ起こらないが、その分だけ繊細な心の移ろいがささやかに輝き、ページをめくるごとに心がくすぐったくなる。
キャラクター
4.3
双葉は過去の自分を変えようと努力しつつも、本質的には不器用で純情。その一方で、洸は少年時代と比べてどこか冷めた印象を漂わせながらも、時折見せる優しさがたまらなく印象的だ。こうした二人のすれ違いに加え、友情を分かち合う仲間たちもまた、各々が自分の傷や希望を抱えている。単に恋愛の当て馬となるわけでなく、一人一人がしっかり人生を背負っているところが魅力で、世界を立体的に彩っている。
「人は変わる」という命題を優しく、かつ力強く提示している。過去の思い出は美化されやすいが、現実に戻ればそこには変化した自分と相手がいる。そこを受け入れるのか、それとも理想に固執するのか。本作の登場人物たちは、試行錯誤を重ねながらも前へ進もうとする。そうした姿から浮かび上がるのは、結局のところ相手への思いやりと自分自身を見つめ直す勇気の大切さだ。
オリジナリティ
3.9
ひと目見て「王道の青春ラブストーリー」と感じるかもしれないが、過去と現在が交差する切ない構成が、どこか新鮮な余韻をもたらす。恋愛漫画のセオリーをしっかりと踏襲しつつも、中学から高校への移り変わりや、そこに紛れ込む小さな葛藤の積み重ねが独自の空気を生む。派手なアイデアや奇抜な設定はないが、それゆえに人間ドラマの機微が一層引き立ち、胸に染み入る。
ビジュアル
4.1
柔らかな線と、透明感のある描写によって、青春特有の儚さをしっとりと演出している。表情の変化が細やかに追われるため、ふとした瞬間のドキリとする感情がコマからにじみ出るのだ。背景や小物を極端に描き込むわけではないが、逆に余白がキャラクターの心情を鮮明に浮かび上がらせる。まるで春の風をはらんだペン画を見るかのような、淡く儚い世界観が印象的なのである。